北杜夫が楡家の人びとを上梓したのが1964年で、あの分厚い本が本屋の棚に並んだ姿は強く印象に残っている。でも人の記憶は曖昧なのでひょっとすれば楡家の人びとがテレビドラマになったのを見てから本を読んだのかもしれない。この小説は楡家の人びと、すなわち斎藤茂吉と茂吉の義父斎藤紀一を中心とした楡病院の話で、斎藤茂吉の長男斎藤茂太という名前は知っていたが次男の北杜夫どくとるマンボウほどには馴染みがなかった。
昨日ぼんやりとTVを眺めていたらたまたま斎藤茂太・愛称モタさんのインタビュー番組が放映されていたので興味深く見てしまった。番組の名前は「NHK映像ファイル #195あの人に会いたい」というもので10分間に編集されていた。この種の番組は時々不定期に放映されているらしい。確か先月は埴谷雄高のインタビューであったが、相変わらず難解で分かりにくかった。それに比べるとモタさんの話は実に分かりやすくて面白かったので画面下方に流れるテロップをメモした。
【夫婦について】
僕は夫婦関係というものはいい意味でのばかしあいだと思うんですよね ドラマ 心にもないことを言うべきなんですよ 日本人はね 恥ずかしがり屋だから言わないけど 心にもないこと「愛してるよ」てなことをね 「いつまでも元気でね」てなことを 言えばいいんですお互いに そのうち本当になるかも知れませんけどね
【父・斎藤茂吉について】
僕が一番ひどい目に逢って だんだん下にいけばいくほど おやじはいいんですよね
北杜夫・・・でもやっはり カミナリオヤジっていう 少なくとも僕よりずっといいんだ
これは二人の意見一致すると思うけど 結果においては大変ユーモラスなんだけど ご本人は全然ユーモラスじゃないんですよ ご本人はまじめ一点張りなんだけど 茂吉われ院長となりそしむを世のもろびとよ知りてくだされよ か これもちょっとみたら大変ユーモラスな歌なんだけど ご本人にとっちゃまじめ
北杜夫・・・十万円を貸すひとなきかなんて
病院が火事で燃えてその再建に非常に苦労して われに十万円貸す人なきか なんて歌があるしね
【1997年80歳のインタビュー】
若者というのは大概反抗しますよね 僕もひとつの反抗精神だったかも知れない 僕が医者を拒否して文学部に行ったのは もの書くこととか そういうものに憧れたんでしょうね そのうちにだんだん戦争が激しくなってきたんで やっぱり一つの危機を感じたのね 我が家がどうなるか分からないし やっぱり僕は精神科の長男だから ということでそれで転換した 今になってみると文学をかじったということが とっても役に立った 特に精神科はね 人間学ですからね ですから文学と非常に密接なんですよ 第一うちのおやじが二足のワラジでしょ 僕はね おやじの性格とおふくろの性格と両方が入っているからありがたいですよ お父さんのほうはね 超まじめ人間 きちょうめんで完全主義者 おふくろの方は全く正反対で うちの初代のじいさんの性格を受け継いでいる じいさんというのはとにかく 日露戦争の前ごろに 既に精神科を志したというのは これやっぱりね 好奇心旺盛な男ですよ
=2000年平成12年83歳のインタビュー=
【うつと趣味】
臨床的に言えば うつになる人は圧倒的に趣味がない 今うつ状態が大変はやってますけど 日本人の悪いところは あなたの趣味は何ですかと聞くと 仕事ですって方が多いのよ 働き蜂なんです これダメなんです これは我々の研究で統計取りましたら 分かった 本業以外の趣味のある人が晩年非常に明るい 趣味ってのはね 金銭的な関係があったら これは趣味とは言えません 競馬でもなんでも 好きな人っていうか 競馬で儲けようと思ったら趣味じゃないですよ 金銭とは関係ない それから非日常性ね
【一怒一老について】
ーーー斎藤さん旅先で実に楽しいことを
「よし世界中の橋持ち上げてやろうと」と
ーーこの持ち上げる写真のどこが斎藤さん気に入ったんですか
面白いから これは理屈じゃないんです 僕の好きな言葉で 一怒一老 という言葉があるのよ 怒は怒る それから老人の老 怒れば年を取るということ
ーーー怒るたびに年を取って行くんじゃ怒れませんね
だからなるべく笑いなさいって
【メモと老いについて】
ーーーモタさんはメモ魔で、膨大なメモを残している
今から20年前はどういう状況だったか ということが分かりますしね いろいろと失敗談もなにも全部書く
ーーーそれはご自分の一種の観察記録?
そうですね 最近10年間ぐらいのやつは 老人学の教科書になると思っています 自分が一番分かってますから 自分を どういう風に記憶が落ちていったか どんな忘れ方をするか ということ おやじの歌でこんな歌があったの 僕の大好きな歌 日に幾度にても メガネを置き忘れ それを悲観することもなし という歌なんです この悲観することもなし というのが僕は気に入って 僕も盛んに忘れますけど このごろ それ悲観しない 年相応の状況なんだと思えばいいんです
【死生観について】
僕はね 何年か前に「死への準備」という本書かせられちゃった 楽しく書きましたね あの世を 普通の人は三途の川 渡るじゃないですか 僕はアマノジャクだから三途の川をさかのぼって行くのよ どんどんどんどん 結局最後はね 水がなくなっちゃうんだけど それでもこう 這って行きますとね 水の中に水の中に入って行くんですよ それをね おふくろの羊水って僕は書いたの 結局おふくろの子宮の中に再び戻って行く というふうに書いた それユーモラスに書いたんですよ あの世は実にもう何の苦しみもないの だいいち原稿の締め切りはないし 税金もないし 食べ物は頭にポッと浮かんだものが 目の前にシャと出ると おふくろ おやじにも会えるし 先だった親友にも会えるし 「やあやあ久しぶりだね おれも来たよ」 それが楽しみ というふうにあの世を考えているんです 結局ね100パーセント要求しない ということでしょうね 完全無欠な要求をしないってことでしょう 完全無欠を要求している人ほど 苦しいですね だから僕の好きな言葉に 少欲知足という言葉好きなんです 少ない欲 知は足る 足は足 足るを知る だから欲望を小さく持って満足しなさいと
【斎藤 茂太(さいとう しげた、男性、1916年3月21日 - 2006年11月20日)は、日本の精神科医で医学博士。作家としても知られた。愛称はモタさん。】
2008年11月08日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/109255872
この記事へのトラックバック
http://blog.seesaa.jp/tb/109255872
この記事へのトラックバック

